第2課題↓
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応用編の課題『昔話の結末を書き換えよう(原稿用紙 3 枚)』を、お送りいただきありがとうございます。nyoraikunさんの作品『ヘンゼルとグレーテル』を拝読いたしました。展開の意外さとブラックさがやわらかな文章で書かれていて、かえって恐怖が増していました。人間の心の深淵を抉るタイプの恐怖は、やわらかな文章で書くほうが効果的だというのを、nyoraikunさんは無意識に心得ていたのでしょう。これも才能の一種だと思います。
第 1 回の課題と同様に、nyoraikunさんの文章もアイデアもとてもいいのですが、細かな設定や状況が書かれていないのが残念でした。既存の『ヘンゼルとグレーテル』は皆が知っている童話なので、今さら説明せずとも誰もがあらすじを知っています。しかし第 1 回の時にお伝えしたように「書き換える」というのはつまり、nyoraikunさん独自の『ヘンゼルとグレーテル』にするということです。なので、読者はnyoraikunさんの『ヘンゼルとグレーテル』を初めて読むわけです。つまり設定や状況をさりげなく説明する必要があります。原稿用紙 3 枚でこれをやるのはなかなか厳しいのですが、さりげなく、でいいので冒頭で説明を加えるといいと思います(ヘンゼルとグレーテルの兄妹はなぜ森をさまよっているのか、という点ですね)。
特に今作の 1 行目「ひとのいいカモはそのとおりにしてくれました。」というのはかなり唐突で、読者にはわかりにくいのです。「ひとのいいカモ」とは人間のことなのか(あまりいい表現ではありませんが、他人様のことをカモと言う場合もありますよね)、それとも鴨のことなのか、「そのとおり」の「その」は何を指すのか、1 行目にこの一文がきてしまうと、読者には何のことかわからなくなってしまうのです。小説の冒頭はかなり大切です。
1 行目で読み捨てる読者もいますので(厳しいですが、これが現実です)、特に注意してください。
とはいえ、今作はうまくまとめられていると思います。ブラックなりの「めでたしめでたし」な結末で、教訓が含まれた童話としても完成度は高いです。ただ、前述したようになぜヘンゼルとグレーテルがこのような状況下にあるのか、という事情が抜け落ちているので(既存の『ヘンゼルとグレーテル』を知っていたとしても)、どうしても臨場感が足りない
のです。ラスト、「ヘンゼルが前かけをゆすると…」とありますが、ヘンゼルは前かけをしていたんですね。一般的に前かけをするのは女性(女の子)というイメージですが、ヘンゼルは男の子です。いいえ、男の子が前かけをしてもいいのですが、ここでいきなり前かけが登場するのが唐突だと申し上げているのです。
冒頭そしてラスト、読者にとって唐突だという箇所がふたつ出てきました。作者であるnyoraikunさんにとっては何が唐突なのか、もしかしたら疑問に思うかもしれません。しかしこういった読者と作者の意思疎通がうまくいかない事象はよく起こるのです。作者は当然、小説の世界をすべて把握していますが、読者はまったく把握していません。小説は漫画や映画やテレビドラマのように、わかりやすい絵や映像がないのです。
文章だけで情景を想像できるように、読者を導かねばならないのです。これを解決するには推敲を重ねるしかないのですが、ただ漠然と推敲するのではなく、一度書き上げたら 1 週間なり 10 日寝かせて、まっさらな目で読んでみる、というのを繰り返してみてください。読者の立場で読めるようになると思います。
第 3 回の課題も楽しみにしております