新宿バルボラで会った午前六時のシンデレラ――佐伯るかさんと、同じ星を見る朝

午前六時のシンデレラ――佐伯るかさんと、同じ星を見る朝

午前六時。まだ新宿の街が、その日の顔を作り終えていない時間に、バルボラで佐伯るかさんに会った。

以前から気になっていた人だった。「ピュアなシンデレラ」「純白無垢」「清楚」という言葉が並ぶ紹介文を見ながら、本当だろうか、とも思っていた。こうした言葉は、ときに「天然」や「不思議ちゃん」の言い換えにもなるからだ。

けれど、実際に会った彼女はまったく違った。

銀座三越のショーウインドーから抜け出してきたような白いドレス。整った顔立ちと、光の宿った目。おっとりしているけれど、受け答えはきちんとしていて、こちらの目を見ながら静かに話してくれる。大企業の受付にいても、秘書をしていても、オフィスの中心で仕事を動かしていても不思議ではない。そんな端正な雰囲気を持った人だった。

その人と、朝の個室で二人になる。

いかにも作り込まれた風俗の夢というより、職場で密かに惹かれていた女性と、出勤前の短い時間だけ恋人になったような錯覚があった。現実の日常のすぐ隣に、二人だけの秘密の部屋が開いたようだった。

彼女は横浜ベイスターズの熱心なファンだった。

ちょうど阪神と横浜がクライマックスシリーズを戦い、一勝一敗になっている。僕は阪神を応援しているものの、藤川球児には複雑な気持ちもあり、横浜が勝ってもどこか嬉しい。そんな話をすると、彼女は今年のベイスターズの序盤の苦戦まで、僕以上によく知っていた。

野球の話をしている時間が、思いのほか楽しかった。

だが、彼女と野球の記憶を比べているうちに、不意に時間の隔たりを思い知らされた。かつてベイスターズがリーグ優勝した時代も、落合監督の中日が何度も優勝していた時代も、僕にはつい昨日のことのように思える。けれど、彼女にとっては記憶の外側にある。

会社員として働き始めてからの二十数年は、本当に一瞬だった。

ふと鏡を見ると、そこには髪の薄くなった中年の男が映っている。若い彼女の美しさに触れたことで、自分が失ってきた時間まで、一緒に照らし出されてしまったようだった。

華やかさの奥に、ほんの少しだけ静かな陰りが見えた気もした。それが何なのか、もちろん僕には分からない。純粋な愛を信じて裏切られたのではないか、何か金銭的な事情があるのではないか――こちらはいくらでも勝手な物語を作れてしまう。

けれど、それは彼女の人生ではなく、僕の欲望が作った物語なのだ。

ただ、何もかも楽しそうに演じられるより、そのわずかな陰りのほうが僕には自然に思えた。そして彼女の静かな優しさに包まれながら、身体の時間にもきちんと結末がついた。束の間であっても、僕は確かに幸せだった。

別れ際、彼女は今日もベイスターズの試合を見ると言った。

「また一緒に見ようね」

部屋を出れば、僕たちはもう恋人ではない。それぞれの日常へ戻っていく。それでも今夜、別々の場所で同じ試合を見る。月ではなく、横浜の星を見上げながら。

一夜ではなく、一朝限りのおとぎ話。

現実と幻想の境目に現れ、こちらの胸に物語だけを残していく。手塚治虫ではないけれど、なるほど、ここは「バルボラ」なのだと思った。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

鮮魚の現場で働きながら、美術館・博物館、文学、映画、旅、仕事や人生について、実際に見たこと・経験したことを自分の言葉で記録しています。検索でたどり着いた方にも、何か一つ持ち帰れる文章を目指しています。

コメント

コメントする

目次