智慧の書– category –

　　　　　　　　　　　　　　　　　　七　翌日、ジーナから電話があった。「昨日は、ありがとう」　楽しそうに笑いをこらえていた口を開けて話すジーナの顔が浮かんだ。彼女はいたって変わらないのだ。私の異質性に対する警戒心が、昨夜のような文章を書...

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　六　初めてパブを訪れた夜、なかなか眠れなかった。私は夜中に寝床から這い出し、パソコンに向かって、作家になった気分で小説らしきものを書きつけたのだ。　――運ばれてきたウインナーとベーコンは、どれも黒ずん...

　　　　　　　　　　　　　　　　　　四　　それから三度目の水曜日が来た。明日の約束をしようと、昼休みの終わりに店の外へ出た。携帯電話を手に取って、深呼吸をした。五月の空は晴れわたっている。青空の下、向こうの家の庭に、新緑の木が二本ある。...

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　三　　京王線府中駅構内で待ち合わせをした。会うとすぐ、待った？　と彼女が聞いてきた。私が軽く首を振ると、前に歩み寄ってきて、「良かった」とはっきりした口調で言った。毎週木曜日が休みよと歩みを速める。...

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　一府中国際通りのチャイニーズパブ「ミカ」の扉をゆっくり開けた。同時に右前のトイレからジーナが出てきた。その場に立ったまま、大きい目をさらに大きくして、私のことをじっと見てくる。何よと言いたそうに口元...

昨秋、会社から4日間の休みを得て三輪山に登拝した。私は三島由紀夫の文学が好きで、彼の作品に登場する場所を巡る旅を続けている。『豊饒の海』全4巻のうち、第2巻『奔馬』には三輪山を登る場面が描かれているのだ。狭井神社の社務所で手続きをして、頂上...