■ はじまりは、東横イン弁天町
9月16日(火)、前夜に東横イン弁天町に泊まり、始発電車で夢洲へ向かった。
車内は異様な緊張感に包まれていて、駅に着くやいなや、人々は目を血走らせ一斉に駆け出した。
私も不用意に前へ出た瞬間、弾き飛ばされて尻もちをつき、アザができるほどだった。
混沌の熱気の中、「これは戦いだ」と悟り、もう走らず、静かに歩いてプロミネントカード専用列を探した。
■ 列の隣にいた、グルメの女神
スタッフに案内されて柵沿いに腰掛けると、隣に一人の女性がいた。
黒髪で瞳が聡明に輝き、どこか土の香りを思わせる落ち着いた雰囲気。
葛飾区から来たというその女性は、今回が万博14回目。
前日は昼過ぎに入りグルメを楽しみ、翌日は朝から再びグルメ巡りをするのだという。
彼女の語るリストは目を見張るものだった。
外食パビリオン「宴」のおにぎり、サウジアラビアのカフェ、タイのクッキー、台湾のソーセージ、バーレーンのケーキ、オマーンのローズケーキ…。
「世界の味覚を歩きながら味わえるなんて、なかなか無い機会ですから」
そう話す声は澄んでいて、まるで“舌の教養”という言葉がぴたりと当てはまった。
彼女はイタリア館のチケットも、人気が出る前にサイトで無料で取っていたという。
プロミネントカードも、初期はJTBが2200円で日本館優先入場券つきで販売していた頃に買っていたそうだ。
今や万単位で取引されるそれを、先見の明で入手している——
「これが先行者利益ってものなんでしょうね」と微笑む彼女に、私は密かに感嘆した。
■ 開門ダッシュと「いのちの未来」予約の賭け
やがて開門。
プロミネントカードは回収され、QRコードを読み込むと、会場内を自由に歩けるようになる。
私はアメリカ館へ一目散に走りながら、当日予約でいのちの未来を確保しようとスマホを操作した。
しかし時間がかぶっていると気づき、冷や汗が伝う。
一度キャンセルして10時枠を取り直すと、無事に確保。
二の腕が心臓の鼓動と一緒に震えるほど、安堵した瞬間だった。
■ アメリカ館──陽気さと軽やかな深さ
アメリカ館では、スタッフたちがリズムよく声をかけ、観客を盛り上げていく。
やがて大谷翔平が画面に現れると、場内は歓声に包まれた。
数々のイノベーションの歴史が映像で紹介され、最後はロケットに乗って月へ向かうような精細映像。
無重力を感じるほどの臨場感の中、扉が開くと月の石が出迎えていた。
20年前に訪れたロサンゼルスやラスベガスで感じた「陽気だが浅い」空気がよみがえる。
だが、軽やかさの中にこそ深さがある——そんな逆説を、この空間は体現していた。
■ 次回予告
こうして9時半、アメリカ館を後にし、私はいのちの未来へ向かって走り出した。
次回は、その圧巻の展示と、私の内面に起きた変化を綴っていこうと思う。








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