①
国立科学館前では、平日の木曜日でありながら、催しもので、ブラスバンドをやっている。上野公園は、やはり人だかりが、東京郊外に居住している感覚だと、平日でありながら、日曜祭日といった感じだ。本日は哺乳類展ということで、楽しみにしていた。入ると、スクリーンにクジラとハリネズミが出ている。世間一般からすると、とても哺乳類に似つかわしくない動物をここにもってきて、入場者の気をひく意図がある。くじらは哺乳類だから、海上にでて呼吸をするのであり、ホリエモンいわく、宇宙にAIを搭載した人工衛星をとばして、海上を観察すれば、くじらが海面に出てくる状況から、生体など、わからなかったことを解明する手がかりになると話していた。彼のライフワークである宇宙開発というもの、北朝鮮のロケットマンこと金正恩よろしく、ホリエモンも陽気で飛ばないロケットマンと揶揄する声もあるが、実利があるからこそ努力しているのだろう。少し先を見過ぎているところが、天才らしいのであるし、また、それを見越してぱほーマンスを感じるからこそに滑稽なのだ。
②
ここは国立科学博物館である。それゆえに科学的に分類するから、それほど興味のないことまで、学問的厳密さを求めているところがある。育ちのよさそうな子供と両親で来ている家が目立つが、中には、専門家のような、目を皿のように長時間かけて回っているものもいる。私等は、哺乳類の魅力を楽しく官能的に堪能できれば、それでいいというものなのだが、中には、専門家にとってもうなずける納得できる内容でなければならないのだから、この展示を創る方も大変だ。
③
「荒野を駆け、地中を這い、大洋を泳ぎ、夜空を舞う。
体長はわずか5㎝に満たないものから30mを超えるものまで。
とにかく、哺乳類は多種多様だ。
それでも、そこには共通点があり、つながりがある。」
このニュアンスは文学的で、惹かれるところがある。今、スマホで多くの差別的投稿があるのと同時に、その差別を無くしていこうという運動も多い。代表的なものには、人種差別であろう。戦争は今の時代も絶えない。この一見すると別ものであっても、共通点とつながりを探していく視点は大切だという目を、入場者に訴えかけている。
他者と認められるものとの通路の回復はありうるのか? この問いかけが、科学はどこまでも進歩していくであろう人類に突き付けられた最重要課題であると私は信じている。
④
哺乳類という言葉通り、哺乳が最大の特徴である。会社の上司に、いつまでも母ちゃんのオッパイをなめているわけにもいかないんだからなと言われたことを思いだす。ここでイルカは魚類だと思ってしまうが、授乳しているところを写真で表示しているところに説得力がある。イルカの芸を品川の水族館で見たことがある。ギイギイと聴覚の発達しているイルカはいくども鳴き声をあげ、仲間通しで意思疎通をはかっている。芸も見事で、こんな頭のいい魚がいるのかと不思議だったが、常識がなかった。イルカは哺乳類なのだ。
静岡県西伊豆の安良里に、三島由紀夫『獣の戯れ』の舞台を見にいったとき、イルカ塚があった。イルカ漁で栄えた町は、どこか生々しいくらい情緒があり、その定食屋に入ると、仕留めたイルカを担いでいる男4人の白黒写真が飾ってあった。イルカを殺すというのは、哺乳類の仲間を殺している感情が、やはりあるのだろう。これは、分類上のことではなく、実感を伴った行動に違いない。
⑤
乳を吸う行動により、顔面神経が呼び覚まされ、表情筋が発達する。そのことで、表情で気持ちを表すことにつながっているのだろう。僕はこの目で嘘をつくというチャゲアスの歌があったけれど、実際に会って、じかに声で伝えようとすると、それにのまれて騙されてしまう人がいるのも、この表情というのに、嘘と思えても、本能が抗えないというのがあるのかもしれない。ホストクラブに貢いで破産している女性も、頭ではわかっていたけど、やめられなかったというのは、ホストの表情が頭によぎると嘘だとも思えないということは全然ありえる。
⑥
メスの体内で子供を発育させるための子宮と胎盤をもったことが、哺乳類を繁栄させた最大のカギだということだ。卵を多く産んで、子の面倒を見ない爬虫類の戦略より、哺乳類の方が少数精鋭でより強い個体をつくることで地球の環境に対応するというのは面白い。地球上で大繁殖したのは、ネズミとゴキブリと人間というけど、そのメカニズムについて考察する価値はありそうだ。そのことをテーマに本でも面白可笑しくつくれば、結構売れそうである。
⑦
アライグマの子宮を見て、熊の胎児は大きいから、これだけの大きい袋が必要なんだねと笑う子供が偶然写っている。本当に親ガチャであり、親によって、子の運命が決定されるというのは、理不尽なものだ。なんでこんなに不平等な世の中なのだろう。中国では、優秀な遺伝子を掛け合わせて、人工授精による人間をつくりだしていると聞いている。親ガチャの解消は、未来のテーマになりうる問題だろう。