

年末年始になると、なぜか立川に泊まるのが習慣になっている。
観光でも帰省でもない。
ただ「日常から少し離れるため」だけの宿泊だ。
今年も同じように、駅前を歩きながら、いつもの店に予約を入れた。
立川発のアロマエステ、ピュアエンジェル。
何度も通っているけれど、この店は不思議だ。
キャストによってサービスの質がまったく違う。
丁寧にマッサージしてくれる人もいれば、
おしゃべりばかりの人もいる。
統一感がない。
でも、その「バラつき」こそが、この店の魅力でもある。
作られたプロ感より、
どこか街を歩いていそうな「普通の女性」の気配。
その素人感に、僕はいつも救われてしまう。
今回選んだホテルは、いわゆるラブホテルだった。
最上階に露天風呂。
ジェットバス。
カラオケし放題。
映画見放題。
浴室にテレビまである。
ビジネスホテルより安くて、はるかに贅沢。
「ここ、普通に住めるな…」
そう思うくらい快適なのに、
“ラブホテル”というだけで、どこか後ろめたい。
会社の経費では落とせない場所。
公ではなく、あくまで「私的な欲望」のための空間。
そのグレーさが、妙にリアルだった。
部屋でひとり、カラオケを歌う。
でも不思議と楽しくない。
ボックスと違って、声が返ってこない。
自分の歌が空間に吸い込まれていく。
広い部屋でひとりきり。
贅沢なのに、少しだけ寂しい。
その静けさの中で、
「誰かと来られたらいいのに」と、ふと思う。
でも同時に、
「自分はそんな関係を築ける人間だろうか」とも思う。
この矛盾が、いつも胸に刺さる。
やがて、今回の担当の女性が来た。
坂口ゆめのさん。
20歳とは思えないほど落ち着いていて、
清潔感があって、誠実そうで、
どこか女子アナのような雰囲気。
正直、この世界にいるタイプには見えなかった。
マッサージは驚くほど丁寧だった。
足裏から、手、肩、首へ。
ひとつひとつ、教科書どおりに、静かにほぐしていく。
「癒し」って、こういうことを言うのかもしれない。
身体よりも、心が緩んでいく。
会話も自然だった。
美容の仕事をしていること。
自分で商売をしていること。
AIやChatGPTの話まで出てきたのには驚いた。
こんな話ができる人、
普段のサラリーマン社会にはなかなかいない。
リスクを取って、自分の人生を自分で切り開こうとしている人。
その強さと、どこかにある防御の気配。
近くにいるのに、触れられない距離感。
それが少しだけ切なかった。
満たされたか、と聞かれたら、正直よくわからない。
癒されたのは確かだ。
でも、何かが足りない。
結局僕が求めているのは、
サービスではなく、
関係性なのかもしれない。
ただ一緒に映画を観て、
ゴロゴロして、
意味もなく笑い合えるような、そんな時間。
ラブホテルの広い部屋で、
ひとりそれを想像している自分が、少し滑稽だった。
帰り道、夜の立川を歩きながら思う。
自分は何を求めて、こういう場所に来るんだろう。
欲望か。
癒しか。
孤独の穴埋めか。
たぶん全部だ。
でもきっとそれでいい。
人間なんて、だいたいそんな曖昧な生き物だから。
また年末、ここに泊まるかもしれない。
そのときは、少しだけ違う気持ちで、この部屋に入れたらいいなと思う。


コメント