■ 静寂の森を抜けて
いのちの未来を後にし、朝に通った静けさの森を今度は左手に見ながら北上した。
途中、スシローが「本日の予約は締め切りました」と掲示していたが、
スタッフに尋ねると「午前中なら今だけ入れますよ」と言われ、
その「今だけ」に心を動かされ、ふらりと足を踏み入れた。
■ 食の教養より、食い意地
今朝出会った葛飾区から来た女性が、世界各国のグルメを楽しそうに語ってくれた。
それを聞いたときは、私も「食の教養を高めねば」と思ったはずだった。
けれど、いざ目の前に寿司が並ぶと、結局は“慣れ親しんだ安心”に手が伸びる。
スーパーマーケットに勤めていながら、自分の味覚は狭いままだ──
そんな自省も、醤油の香りとともに湧いてきた。
店内は万博特別仕様になっていて、タッチパネルではゲームが始まった。
画面上のウニを指で消していく内容で、
「ウニが増えすぎると海の生態系が壊れる」という解説つき。
一人で参加していた私に、スタッフがさりげなく手を貸してくれた。
隣の男性客は見事グランプリを獲得し、「こんな光栄なことはない」と笑顔でガッツポーズ。
その陽気さがまぶしく、私はほんのり嫉妬すら覚えた。


■ 灼熱の中、未来の都市へ
時計は11時30分を回っていた。
地図を見ると「未来の都市」は西ゲートのさらに奥──最も遠いパビリオンだ。
炎天下を急ぎ足で進むと、汗が目に入り、左脇が擦れて痛む。
ようやく会場に着き、スタッフから「12時5分前に戻ってきてください」と言われたので、
向かいのアフリカ系フードコートで一息ついた。
壁に向かった席に座り、汗を拭う。
隣では中学生の男子グループが笑い合い、子どもたちは手押し車で遊び、母親が写真を撮っていた。
もう過ぎたことだが、「自分は父親になれただろうか」──そんな問いがふと胸をよぎる。
私の人生は、ずっと“自分のため”にあったのだと思う。



■ 都市が語る、未来のかたち
やがて案内時間になり、未来の都市に入館。
うねる通路の両壁には「ソシエティ1」「ソシエティ2」…と、人類史を描いた映像が流れる。
足を止めるたび、その精緻さに息をのんだ。
一方で、スマホでは次の当日予約を狙い続けていて、
「観る」より「取る」に追われている自分に苦笑もした。
展示は、未来のモビリティや二酸化炭素を吸収する建材、
自動でコップに水を注ぐロボット車両など、
未来都市の暮らしをリアルに体験できる内容だった。
子ども連れの家族たちが歓声を上げ、楽しそうに駆け回っている。
その光景はどこか眩しく、私の孤独をいっそう際立たせた。










■ 予約争奪戦、そして一瞬の後悔
展示を出ると、すぐさまアースマートの当日予約争奪戦に挑んだ。
西ゲート端末は「1時間半待ち」とのアナウンスにすぐ諦め、
スマホでひたすらリロードを繰り返す。
13時3分、ついに「15:30」の枠が出た──が、エラー。
「×」の嵐に打ちひしがれながらも、5分後、奇跡のように「19:15」が取れた。
思わずガッツポーズをしかけたその瞬間、
朝に出会ったあの女性の顔がよみがえった。
LINEくらい聞いておけばよかった──
ほんの少しの勇気を持てなかった自分が、悔しくてたまらなかった。
■ 人であふれる大屋根リングの下で
熱中症が怖くなり、自販機でポカリスエットを一気飲みする。
周りではアジア系の家族が楽しそうに談笑している。
私はイタリア館へ向かう前に、
大屋根リングの下で親に電話をかけ、「今日は宿泊する」と告げた。
頭上には、群衆で埋め尽くされた巨大なリング。
ふと「ここにいる誰もが、同じことを考えているのではないか」と思い、
背筋がぞっとした。








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