
7年前、新入社員として僕の職場にやってきた彼女が、退職するというので会いに行った。
彼女はもう29歳。あの頃は「若い」としか思っていなかった彼女が、もうすぐ30。時の流れが速すぎて、言葉を失った。
静岡出身の彼女は、どこか屈託がなくて、太陽みたいな明るさがあった。寒いし、臭いし、重いし、荒い。そんな鮮魚部門の仕事を、華奢な体で7年も続けてきたというのだから、相当な根性だ。
でも彼女は言った。
「これからは、遺伝子解析の仕事に進みます」
その一言を聞いたとき、僕は何とも言えない気持ちになった。
彼女には可能性がある。未来がある。でも僕は、いつからか“守り”に入ってしまっていた。
僕は45歳。この仕事しか知らない。転職のリスクが怖くて、動けなかった。
でも本当は、何かを変えたかった。
彼女と話して、改めて気づいた。――僕はずっと、自分の人生から逃げていたのかもしれない。
同世代の友人が、病気で亡くなったという話も最近よく聞くようになった。
「人生は短い」
それはわかっていたはずなのに、僕は“今の暮らしを壊すこと”が怖くて、夢を後回しにしてきた。
彼女は、夢を選んだ。
僕は、安定を選んだ。
どちらが正解かなんて、今はまだ分からない。だけど、こうして人生の分岐点を前にして、強く思う。
好きなことをする勇気が、人生を変える。
僕もいつか、何者かになれるだろうか。
いや、何者かにならなくてもいいのかもしれない。
大切なのは、“好きなことをして、生きる”ってことなんだ。
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