nyoraikunのブログ

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魅了された天才の筆致:樋口一葉の『たけくらべ』が語る人間模様


私が樋口一葉に惹かれたのは、『たけくらべ』を読んでからだ。その小説に宿る繊細な感受性と鋭い洞察に、まさに「天才」と呼ぶにふさわしい才能を感じたのだ。

展示で見た一葉の家族の物語
一葉の展示は彼女の家族、特に父親と母親の写真から始まる。父親は士族の出で、川の利権を巡り警察に訴えるほどの正義感の強い人だった。その正義感が災いしたのか、彼は士族を追われ、商売を始めるも失敗し、非業の死を遂げることになる。

その後、家族は貧しさと悲劇に襲われる。家督を継いだ長男は大蔵省に入るほど優秀であったが、23歳の若さで肺の病気により命を落としてしまう。父も兄も失った一葉と母、妹は支え合いながら生きるが、貧困に苦しみ、夢と現実の間で揺れる彼女は、小説家としての道を選ぶことになる。

吉原との出会いが『たけくらべ』を生む
一葉の資金繰りが厳しくなった時、彼女は吉原の近くで小間物屋を開業する。開業当初は順調だったが、やがて商売は厳しくなり、生活は困窮する。そんな中、吉原に近づくことで彼女は下層社会の人々に触れるようになり、商売を通じて、吉原で生きる子供たちとも接するようになる。

“あの道の往き帰りする人の群れに、涙することあるらむか、喜ぶことあるらむか…”

一葉はこうした吉原の子供たちや、厳しい環境でもたくましく生きる人々にインスピレーションを得て、『たけくらべ』を書き上げたのである。その名作は、人間の哀しみと力強さ、そして現実にしがみつく彼らの生き様を、冷静でありながらも温かな筆致で描き出している。

萩の舎での経験が磨いた感性
一葉が15歳の頃、彼女は歌を学ぶために「萩の舎」に通うようになる。ここは公家や旧大名家、そして明治政府の特権階級の娘たちが集まる歌塾だった。下級官吏の娘である一葉は、華やかな場所に気後れしながらも、親が借りてきた古着で出席し、初の発表会で最高点を取る。

この経験は一葉にとって大きな自信となり、彼女はあらゆる身分の人と関わる中で、自分の目で人を見つめる力を磨いていったのかもしれない。

“家族あり友ありても、我ひとり筆をとる我、さびしきことよ…”

彼女は一生涯、孤独と向き合いながらも多くの人々との出会いを重ね、その出会いを通して彼女の文学的な感性が一層研ぎ澄まされたのだろう。

一葉が見つめた現実と温かさ
横浜まで泊まりがけで訪れた展示を見て、私は一葉が作品に込めた思いをさらに深く理解することができた。『たけくらべ』には、一葉が実際に見てきた吉原で生きる人々や、出会った子供たちの姿が宿っている。彼らは貧しさや悲しみを抱えつつも、それに屈せずに懸命に生きている。その姿は、どこか私たちの心にも温かく響き、一葉の目を通して人間の本質に迫る力を与えてくれる。

樋口一葉の生涯と『たけくらべ』が、私たちに投げかけるものは深く、そして現代にも通じる。彼女が見た世界に触れることで、私たちもまた、人の心に宿る優しさや悲しみを感じ取ることができるだろう。

“生きて、生きて、生きぬきてみよ…”

そう語りかけるような一葉の作品を通して、彼女が私たちに残した不朽のメッセージを、今一度かみしめたい。

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