はじめに
紀行作家の三島由紀夫が訪れた熊野古道。その中でも瀞八丁(どろはっちょう)は、秘境の一つとして知られています。彼の足跡を辿るため、私も熊野本宮神社を参拝し、その後プロペラ船に乗る計画を立てました。
熊野本宮神社から瀞八丁への旅
瀞八丁へのアクセスには、志古からと小川口からの二つのルートがあります。私は小川口からのルートを選びました。道の駅で情報を集め、指定された河川敷に向かいましたが、標識は見当たりませんでした。少し不安になりつつも待っていると、老夫婦が現れ、ここが乗り場だと教えてくれました。彼らは新婚当時にもここを訪れ、先日金婚式を迎えた記念に再び来たのだそうです。
瀞八丁の魅力と歴史
船に乗り込み、二人の船員が瀞峡について説明してくれました。写真パネルを使いながら、かつてこの場所には小学校があり、今でもその痕跡が残っていることを教えてくれました。自然の中で生活していた人々の歴史を感じながら、船はゆっくりと進んでいきました。
文学者の視点から見ると、この地域の自然環境は、まさに「深山幽谷」と呼ばれるにふさわしい場所です。ここで育まれた文化や歴史は、日本の文学や詩歌に多大な影響を与えてきました。小学校があったという事実は、人々の生活がいかに自然と共生していたかを物語っています。
鮎釣りの名所
瀞八丁の川辺には、数人の鮎釣りを楽しむ人々が見えました。ダムができる前は、素人でも簡単に天然の鮎が釣れたそうです。今では難しくなったものの、釣りの魅力は健在で、たくさんの釣り人が訪れています。
漁業の専門家によれば、瀞八丁のような地域は鮎の生育に最適な環境を提供しており、そのため、釣り人たちにとっても魅力的な場所となっています。ダムの建設による影響もありつつ、現在でも釣りの文化が根強く残っていることが分かります。
変わらない景色と老夫婦の思い出
老夫婦は、「昔と変わらない景色だ」としみじみと語っていました。崖の上にある旅館(現在は喫茶店)も昔からあり、集中豪雨の際にはダムから放出された川水が旅館の高さまで達したと船員が話していました。
歴史学者の意見では、こうした景色が変わらないことは地域の伝統を守り続ける上で非常に重要です。集中豪雨などの自然災害にも耐えながら、地域の文化や風景が保たれていることは、その土地の強さと人々の絆を象徴しています。
じゃばらジュースの味と老夫婦の絆
旅の最後に、老夫婦と一緒に1缶200円のじゃばらジュースを飲みました。酸っぱくて甘い独特の味、オレンジとグレープフルーツを2で割り、薄荷を少し混ぜたような風味が特徴です。老夫婦は懐かしそうにジュースを飲み、写真を撮り合う姿に私は心温まりました。離婚する人が多い中、結婚を続けてきた二人の力はどこにあるのか、と考えさせられました。
心理学者によると、長い結婚生活を続けるカップルには強い絆と相互理解があるとされています。この老夫婦も、共に過ごした時間と経験が深い絆を築き上げたのでしょう。
終わりに
熊野古道の旅は、自然の美しさだけでなく、人々の歴史や絆にも触れることができる素晴らしい体験でした。老夫婦との出会いを通じて、時間が経っても変わらない風景と、そこで繰り広げられる人生の物語に心打たれました。次回もまた、三島由紀夫の足跡を辿りながら、新たな発見を求めて旅に出たいと思います。