『山羊の歌』から抜粋
作中原中也
汚れつちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れつちまった悲しみに
今日も風さへ吹きすぎる
汚れつちまった悲しみは
たとへば狐の皮衣
汚れつちまった悲しみは
小雪のかかってちぢこまる
汚れつちまった悲しみは
なにのぞむなくねがふなく
汚れつちまった悲しみは
倦怠のうちに死を夢む
汚れつちまった悲しみに
いたいたしくも怖気づき
汚れつちまった悲しみに
なすところなく日は暮れる……
精子提供だとか、DNAだとか、人間を飼育ケースに入れて観察しているような文学が好きだとか、随分と汚れた人間になったものだと思うけれど、このところ、心打たれた詩集がある。
私は今、思秋期なのかもしれぬ。
『人生半ば』
作ヘルダーリン
黄色い梨の実を実らせ
また野茨をいっぱいに咲かせ
土地は湖の方に傾く。
やさしい白鳥よ
接吻に酔い惚け
お前らは頭をくぐらせる
貴くも冷ややかな水の中に。
悲しいかな 時は冬
どこに花を探そう
陽の光を
地に落ちる影を?
壁は無言のまま
寒々と立ち 風の中に
風見はからからと鳴る。
『秋』
作リルケ
木の葉が落ちる 落ちる 遠くからのように
まるで大空の遠く離れた庭園が枯れたように
木の葉は嫌々ながらも落ちてくる
そして夜になると 重たい大地が
あらゆる星から 孤独のなかへ落ちてくる
わたしたちはみんな落ちる この手も落ちる
他のものも見てごらん みんな落ちていくのだ
けれども ただひとり この落下を
限りなくやさしく その両手で支えている者がある