日本平の夜景が観たいと思い、風景美術館が売り文句の日本平ホテルに宿泊することにした。入口から入ると、大きなガラス窓に、日本平の景色が広がっていた。
日中見えなかった富士の冠雪も、雲が上に棚引いているだけで良く見えた。午後5時からの館内ツアーの参加者は私一人だけである。支配人が私のためだけに熱心に話してくれた。ホテルのファンを増やすためのアピールでもあるのだろう。いかに環境に配慮してつくられているかということ、日本人はシンメトリーより少し富士の位置が左にズレている方が見やすい傾向があるそうだが、チャペルにおいては、十字架のくるところの真正面に富士がこなければいけないと、建物をそこだけ少し傾けてあるそうだ。人の喜びのために、苦心惨憺して創り上げたのだ。そこまで人の五感は贅沢になっていく。これはいい傾向なのかな?
「まさに芸術作品ですね」
と口にした。支配人は喜んでいるようだった。
1階のCAFEでは、芝生に座ってお茶をしている気分にさせるように設計されているという。
お腹の調子が悪く、何度も漏れそうになるのを我慢しながら、支配人について回ること30分、説明が終わると、トイレに駆け込んだ。東京から来ているとあって、調子が悪いという姿は警戒されるという思慮が働く。
最上階のラウンジテラスが22時まで開いているというから、夕食後、日本平の夜景を眺めにいった。幼い頃に眺めた函館の夜景とはまた違う、人の息づく生活の力からくる鼓動が脈打つような夜景である。日中は富士を背後に、ミニチュアサイズの模型がぎっしりと平地に詰め込まれているように見えた。シムシティというテレビゲームを思い出しやりたくなった。
それにしても、実際の風景であることを訝しく感じてしまうほどに、風景美術であった。
翌日の朝も無理を言ってテラスを開けてもらった。十分見たから出ようとしては、名残り惜しくて、また見てを繰り返した。晴れて富士山の冠雪を眺められて、この上ない幸せであった。日常の憂悶を忘れることができた。
批判覚悟の追記
案内してくれた支配人の御恩を仇で返してしまった。静岡AF学園のデリヘルを呼んだのである。外に出たところで、従業員の男が立っていて、2万5千円を払った。リズムさんという女性が入ってくると、金髪でいかにも娼婦であった。部屋に案内する途中で、ロビーにいたスタッフが出てきて、宿泊客以外の入場は禁止ですと止められる。「マジかよ、ちょっとトイレだけでもしてえや」と下品にリズムさんがつぶやく。
一端、外に出る。ホテルのロビーに、先ほどの支配人が出てきて、こちらを怪訝にのぞいている。私は先ほどの男を見えない場所に誘導して、お金を半分はあげるからと交渉した。本部のスタッフに電話をして話をすると、ホテル移動する以外のキャンセルは認められないらしい。
私は観念して、今夜のセックスはあきらめた。金髪の女性とHなことをする気になれなかったというのもある。
金の恨みは恐ろしい。自分がいけないにしても、惜しいことをしたという後悔が募って、翌日の夕方まで尾をひいたのである。パチンコですったことを思えば、以前、フィリピンの女性に20万円払ったことを思えば等と心を鎮めようと骨を折った。
何故、後悔が雲散霧消したのか? そのことは、次回に話そう。