台風の去った10月24日(月)祝日に、ツヴァイの紹介書にコンタクトを申し込んだ相手と会うことになった。システムエンジニアの仕事をされていて、猫の世話と映画が好きな32歳の女性である。新宿西口ヨドバシカメラの前で待っていると、寝坊したから30分遅れるとメールがきた。末っ子で少し甘えん坊なところもありますので、時に優しく時に厳しく見守ってくださる方だと嬉しいですとコメント欄に書いてあったのを思い出した。彼女の甘えん坊な可愛い性格の一端なのかもしれない。
しかし、遅刻しない人は、ほとんどしない。1度でも遅刻する人は、何度もする傾向があると思う。いざ海外旅行の時に、空港で待ち合わせていたとする。来ないから電話をすると、今起きたなんてこともありそうな気がしてしまう。私と会うのが乗り気ではないという感じでもない。
待っている間、ドローンがUFOのように空中に止まっている様子を飽かずに眺めていた。必死に4つのプロペラを回しているから、飛んでいられるんだと自分に言い聞かせていた。
遅れてすみません、ヨドバシカメラのコンピューター館に来ていただけますかと連絡が入った。時刻は、13時45分だから、45分の遅刻である。私の前に駆けてきて、すみませんと頭を下げた。おでこに大きいアトピーがある。首筋に太い血管がひび割れたような痕がある。全身、皮膚に炎症をもっているように思えた。
東京ドームのライブに行くから15時までという前もっての話だから、話せる時間は1時間ぐらいだ。お茶代は払いますと誠実な態度は示してくる。話はラスベガスに幼い頃行ったこと、システムエンジニアの仕事は、残業が多いこと、自宅の庭を出たり入ったりしている猫がいたから、飼うことにしたこと等である。父親の実家が焼津で漁師をしているらしく、祖父と曽祖父を海難事故で亡くしているということだった。
私が神島にフェリーで行った時に、大海原に小舟が2隻浮かんで漁をしていたけど、船が沈んだら確実に死ぬと思って恐ろしい気持ちになったよと話した時は笑っていた。
彼女が好きな映画『きっとうまくいく』はインド映画の最高峰ともいえるものだ。ジャケットの写真は、三人の男性が尻をかいているような姿で低俗な映画だとAmazonレンタルで観るのを躊躇していたが、観て良かったと心底思えた。4回笑って、8回は涙を流した。
インド映画よろしく突然歌が始まって踊りだすことも何度かあり、ふざけた調子に笑って気を許していると、インド社会の重い問題をさりげなく突き付けてくる。松尾芭蕉が俳句の極意をワビ・サビ・カルミといった。この映画の武器は、ワビ・サビの妙が名作の肝になると信じた芸術家のいい薬になるに違いない。軽さを武器に、作者は伝えたいことを余すことなく表現しえている。映画『万引き家族』のような暗さの中に重い問題を提示しても、視聴者の心にズシッと突き刺さることはないのかもしれない。
この映画を観て、彼女と性格はうまくいきそうだと感じていた。実際に話した感じもそうである。女性にしては虚栄心が少なく、気取っていないところが良い。しかし、アトピーのオデコを彼女がかゆそうにポリポリと人差し指で掻くのを見て、私は彼女とは無理だと決めてしまう。私は女性を性欲のみで決めているのかと自己嫌悪に陥る。わがままな自分を呪わずにいられない。炎症した皮膚を目にして、心が避けてしまうのだ。見えざる差別意識を克服したい。東京ドームでNamcoのライブがあるそうだ。ゲームのイベントだろう。咳をしていたから、お身体に気をつけてねと改札口で笑顔で別れた。