nyoraikunのブログ

日々に出会った美を追求していく!

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エネマグラ

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 JR立川駅北口を出てすぐ右方にある狭い路地を通ると、右手には電車線路が金網越しに見え、左手は、パブや飲み屋、ピンクサロンカラオケボックスの店々が低く軒を争っている。私が歩いていると、肩を叩く者がいた。私と同じ二十七歳ぐらいの眼鏡をかけた男であった。笑みを絶やさないので、以前の知り合いかと思いを巡らせた。小学校、中学校、高校、大学と咄嗟に振り返ったけれど、浮かんでくるものはなかった。今日の遊ぶ場所はお決まりですかと恥じらいを含んだ言葉で話かけてくる。左に目を向けると、『風俗案内所』とあった。
 そうであった。私は今から六ヵ月ほど前に、この店にいた別の店員に、女子高生と遊べる風俗の店はないかと聞いたことがあった。プラットホームではしゃいでいる女子高生二人組に色欲を感じたばかりであった。お店までご紹介しますと黒服を着て、無精髭をはやした中年の男が前を歩こうとしたので、私は断った。彼と歩いている姿を誰かに見られたらと想像するだけで嫌だった。
 私は携帯電話のEZWebにアクセスし、風俗情報掲示板を閲覧して、好みのイメージクラブを選んだ。店のある十二階建のビルに足を運ぶと、先ほどの店員とばったり会った。客である男を挟み、店員は私のことを侮蔑された者が怒りを堪えるような目で見てきた。
 1001と金字で記されたドアを開けると、中は会社のオフィスのようで、いかがわしさはまるでない。ただ、そこの店員も黒服を着ていた。番号札を渡され、控室で待っていた。しばらくして私は呼ばれた。その黒服の店員は丁寧な物腰で言葉遣いが綺麗なものだから、風俗店の受付ではなく、もっといい仕事がありそうなものだと思った。彼はデスクの上に立川駅周辺の詳細な地図を広げた。いたるところに赤黄緑の蛍光線が引かれている。
「当店の女性をデリバリーする際に使用するホテルです。赤はハイ、黄はミドル、緑はリーズナブルなホテルです」
「立川で最も安いホテルでいいのですが」
「ここになります」
 
 そのとき、店員が指差したホテルへ、これから行こうとするのだ。夜行性の昆虫が電灯の明かりに吸い寄せられるように、何の思慮もなく私は歩いていた。正面に赤煉瓦でモダンなビルがある。その横の橋を渡ると、急にネオンのサインが断たれ、繁華街の溜息のように無機質な雰囲気になった。丘の下には、一戸建ての家が暗闇の中どこまでも広がっている。電灯の小さな明かりが幽霊火のようで、足を踏み入れることを躊躇させる。その中
で、蛍光灯のホテルの看板が不意についた懐中電灯の光のように私の目に入った。私は長い階段を降りて、食品工場のがらんとした建物を横に、ホテルに向かって歩いた。道行く人は誰もいない。遠くに軒が低く扁平な安ホテルが見えた。女性の肩に腕を回し中に入る男の姿が目についた。私は一緒に入る女性がいない。けれども、初めて麻薬を嗜むに似た戦きと未知の快感に接する期待があった。語弊があるけれど、女性と男性を一人二役でやろうということだ。

 ホテルの部屋に入ると、谷間の宿のように寒く、すぐに冷暖房のリモコンを探した。初めに手に取ったリモコンは、テレビのものであった。私はベッドの上へ腹立ちまぎれにそれを投げつけた。そのままの勢いでベッドに倒れ込むと、女性の喘ぐ声や脚がうごめくたびに、シーツに皴が寄る様が脳裏にひらめいた。私は芋虫のように身をくねらせて、枕元にあるもう一つのリモコンに片手を伸ばした。
 室温を二十五度の暖房にセットして、起動のボタンを押すと、しばらくしてから生温かい風が吹き下りてきた。私は二時間のあいだに、エネマグラを肛門へ挿しこみ、ドライエクスタシーに達しなくてはならぬ。説明書の実行方法の一~十二を抜き書きしてみよう。
『一、まず直腸が空であることを確認してください。普通便意を催すとき以外は直腸内部はきれいですが、更に清潔を好む方は直腸洗浄器で直腸内を簡単に洗い流してください。二、横向きに横たわり膝をお腹につけるような格好をしてください。三、潤滑剤を肛門の周り、中、及びエネマグラの頭部につけてください。四、エネマグラの会陰刺激用脚部を前方に向け、エネマグラ頭部を少しずつ出し入れしながら肛門内に入れてください。1/3位が入ると、あとは自動的に直腸内に引き込まれ、前立腺、射精管、直腸前壁、会陰部が直接刺激されます。10~15分そのままの状態でいてください。しばらく両手は体に接触しないでください。肛門は快感のため時々ピクピクと動きます。その動きが直接前立腺、射精管勃起誘発神経点に伝わり、その都度激しい未経験のオルガスムスを感じます。全身は硬直します。時々エネマグラを抜いて潤滑剤を補充してください。六、空いている両手でペニス、乳首、睾丸などを刺激してください。ペニスは射精を誘発するので、亀頭縁部を軽く接触する位にしてください。乳首が敏感な人は更に恵まれています。指先による乳首の軽いマッサージは直接肛門、前立腺に響きます。睾丸を両股間で締め付けると更に快感が増大する人もいます。七、十五分位経過後、肛門を少しずつ収縮してください。エネマグラ頭部は更に深く直腸内に引き込まれます。会陰部は突き上げられ、鍼、指圧効果を受けます。エネマグラ頭部頂点及びなだらかな突起部は前立腺、射精管表面を圧迫しながら上方に移動します。超敏感点に接触すると全身中の腺が収縮します。唾液腺までが射出反応を示します。ホルモンもどっと射出されると推察されます。前立腺、射精管、会陰の同時刺激が激快感の秘密です。八、肛門を緩めると頭部は直腸内を下方向けに刺激、異なった快感を与えます。九、この超快感に耐えるには体力が必要です。時々そのままで休んでください。十分もすると体力が回復し、またもやオルガスムスが起きます。オルガスムスの繰り返しは延々と続きます。多くの場合長くても一時間半位で止めることをお勧めします。射精は最後にします。エネマグラを入れた状態で肛門を締め付け、お好みの方法でペニスに刺激を与えてください。パートナーがおられる方はエネマグラを挿入したまま正常位、後側位、後背位等で膣内射精も行えます。射精が近くなるとまず肛門部に数回の強い自発的収縮を感じた後、引き続き射精が起こります。射精時直腸は収縮、前立腺、肛門は収縮膨張の繰り返しを行います。エネマグラ頭部は膨張弛緩する前立腺の変化に合わせ圧迫するので、射精は強力で、五蔵六腑が引き出される位の激しいオルガスムスが得られます。十、使用中かなりの量の前立腺液、カウパー氏液が流出します。また、長時間に及ぶ全身緊張で筋肉内エネルギー消費のため、老廃物が血液内に排出され全身が浄化されます。十一、以上のオナニーはこのエネマグラ本来目的である前立腺障害治療にかなりの効果があり、精力が増した、勃起力が戻った、尿の出、利尿作用が良くなった等の年輩の方々からの報告があります。十二、時間をみて是非一回は試してみてください。無駄ではないはずです。もしこれで快感が得られない方には特殊なペニスカテーテル併用による初期化の方法をお知らせします。尿道への雑菌感染をさけるために注意がいる方法ですが、効果的です。』
 インターネットのエネマグラ愛好家のサイトでは、女性のエクスタシーを男に生まれながら味わえると絶賛していた。私は中学二年生の七月二十二日木曜日に初めて射精の快感を味わったが、いつも絶頂に至る際、女性の喘ぐ顔が脳裏をよぎるのである。私は小学校六年生の秋口に初めて友人の自宅でアダルトビデオを観た。男優の顔は一切映らなかった。たびたび女性の苦しそうな歪みの頬、何度も拒んでいるように求めて振る首、神々しいものを捉えているように時々開いた瞼から覗かれる満ち足りた目、何の感情も示さずに、帆柱のようにたゆたう鼻が印象的であった。初めてのマスターペーションでクラスの好きな女の子の喘ぐ顔が刹那浮かんだのは、アダルトビデオをそれ以前に見ていたことと無縁ではあるまい。
 何故、日にちと曜日まで覚えているか。その日の夜、父親の誕生日祝いのため、お寿司の出前を頼んだ。出前持が配達しに来たであろうチャイムが鳴った。私はトイレにいた。便器に座り踏んばると、下痢が出た。それがいつまでも続いた。すぐに灌腸でもしたかのように、また下痢が出た。目まいが生じると、私は唯事ではないと思い便器の中を覗いた。すると、白い陶器のパレットに滴る花びらのように赤い血が散乱していた。お尻を拭いたトイレットペーパーを見ると、日の丸の模様である。部屋に戻り横になっていると、また便意を催した。トイレの椅子に座ると、大量の浣腸液が噴き出るように血が迸った。また目まいが起こり、私はそのまま前のめりになった。うずくまった状態で、しばらくいると、トイレのドアが開いた。母親が大丈夫と大きな声を立てた。続いて父親がどうしたと近づいてくる足音が聞こえた。私はそのとき、母親にちんちんを見られたことはあまりないなと思って、意識を失った。

 エネマグラを挿入すると、肛門に熱が走った。説明書にあるよう深呼吸に時間をかけてする。胸中に寒気が忍び寄る。寂しさが募ると、隣で肝臓が病んでいる近藤君が寝ているように思えた。肛門から血を流して入院した私の隣のベッドには、一つ年上の近藤君がいた。病室でエロ本を二人で読んでいたことがあった。看護婦がカーテンを開ける音に焦り、掛け布団の下に隠して睨まれたことが、平和な思い出となってよみがえってくる。
 私はため息をついて、笑みを浮かべた。近藤君はエロ本の四コマ漫画吹き出しにズッコンバッコンと書かれているのに興を催し、朝、私と会うとズッコンバッコンと挨拶をして笑っていた。初対面の彼は、挨拶をする私に怪訝な顔をしてすぐテレビを無表情に眺めていた。けれども、甲高い声でズッコンバッコンという挨拶をするようになってからは、この世の宝物を探し見つけたような満面の笑みになるのであった。その顔は素敵滅法であった。
 
 十五分が経過した。肛門を少しずつ収縮する。エネマグラ頭部が直腸内に引き込まれていく。息がつまる他は何も起こらない。先程、エネマグラ挿入の際、塗りたくったエネマグラローションが肛門からじわりと流れるだけである。私はうつ伏せになり、猫のように両手をついて、両膝を支えにして、お尻をゆっくり持ち上げた。胸を揉んでから、乳首を人差し指の長く伸びた爪で掻いてみせた。瞬時、緊張したが、それは股下を吹き抜ける生温かい暖房の風のせいである。全身の力を一気に抜くと、銃で頭部を撃たれたように、うつ伏せに倒れた。エネマグラが直腸に突き立った。
お腹にカメラを入れて、大腸内のポリープを除去する手術を私は受けた。あのホースのような太さのカメラが肛門に挿入されたときの腹部の張りを思い出す。
 お尻の重さも、この寒い時期は腰の痛みに通じるよ。うつ伏せで寝ると腰を治すのにいいと医者は言うけれど、お尻が重いからかえって腰を痛めるんだよ、と会社の同僚が今朝話していた。その男が私の上司に連れていってもらった風俗店で童貞を捨てたのである。女の名前はナナと言った。彼が店に行く一週間前に私はその女とやったのだ。
 私はボーナスが出ると上司を風俗店に招待した。モノレール立川駅南口を降りて、グランディオの看板に背を向けて歩くと、右手に中国人の青年が立っている。彼が店長である。その建物の五階が店であるけれど看板はない。店長に店名を問うと、レモンとどもりながら答えた。私たちが店に入ると、すぐ扉に鍵をかけた。女性の韓国語の声が中からする。店長は入口を遮っているカーテンを押しのけた。狭い通りが十メートルほど続いている。左方にベッドルームらしき部屋の入口が三つほどあり、カーテンで簡易に遮られている。右方には、シャワールームが二室取り付けられている。その一室には明かりがともり、閉められたガラス扉の隙間から湯気が立っている。
 しばらくして店長が出てきて、机の引き出しを急いで開ける。すると五葉の写真を取り出して並べ、私たちに示した。驚いた! 五葉の写真のうち、一葉を抜かしてすべて私はやったことがあった。上司の目は真剣さを増して、少しの間考えてから、そのうちの一葉を指差した。私はまた驚いた。見事に私が手をつけていない女を上司が選んだからである。
 ……私は再度ナナを選んだ。他の女性は皆外国人であったけれど、彼女だけは日本人である。ナナの右腕には、小さな緑色をした雷の刺青があった。腕や太腿の肉付きがよく、お腹はそれに比して引っこんでいた。彼女がシャワーを浴びている後ろから私は両手で両方の胸を鷲掴みした。ナナは腕を返して前へ出ると、サービスが受けられないよと笑った。ことの後で、ナナは前回よろしく私のことをすべてが格好いいと褒めた。目も口も鼻も背も全部を私のものにしたいわと真剣なまなざしになった。私の若くして禿げている頭に手をやってから女の子は髪のあるなしなんて気にしないわと言った。そして、髪をだるそうにかきあげた。左腕にある雷の刺青が二の腕の張りによって大きくなった。シャワー室のレモンシャンプーの匂いが鼻先を掠めた。 
「この緑色をした雷には何の意味があるの」
 ナナは私の顔を覗いて、猫のように首を前に向けて、溜息をついた。知りたい? と挑発するように目を大きくした。けた。私が頷くと、ダメェと声のトーンを一定にして、これだけは言えないよと泣きそうになった。彼女の太腿と二の腕が陸に打ち上げられたクジラの死体に思えた。顔の表情が元気に動くと、他の身体の器官が機能しないような薄気味悪さがあった。ナナは私の顔を覗いて、知りたいの? と鼻声で聞いてくる。私はお酒に酔ったように首を振った。

 エネマグラを肛門に挿していると、糞が詰まっているような感じがするだけである。ナナも私が挿入すると感じているようで、商売女らしく、そう振舞っていただけかもしれない。枕元にある携帯が急に振動した。手に取ると、会社の上司からである。出る気がしないので、そのまま黙って上司の名前と電話番号が表示された画面を眺めていた。なぜこんな奴に生活の大半を支配されねばならないのか疑問を持った。振動が収まると、通常の画面に時計が大きく表示された。午前零時十分前であった。午後十時に部屋に入ったのであるから、制限時間十分前である。急いで出なければならぬ。エネマグラを肛門から抜いて、白いベッドの上へ放り投げた。それは手の石膏のように目立たず、何かを示していた。
 衣服を着てバッグを肩に担ぎ玄関のドアを開けようとした。すると、若い男女の声が聞こえる。あの甲高い声が聞こえる。近藤君である。あの笑い方、あの鼻声、まぎれもなく女はナナであった。私は無我夢中でドアのノブに手をかけて、ひねりながら押した。開かない! 逆にひねっていた。それでも構わずに、ドアをひたすら押した。地震でも起きたかのように大きな音を立てた。気が静まると、ゆっくりとノブを正しく回してから、急いで外へ飛び出した。
 もう近藤君とナナは消えていなくなっていた。ただ誰もいない寒々としたホテルの廊下に、何の彩色もない茶色の絨毯が、酔って倒れた中年の男性のように、身動きなく敷かれているのである。

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