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アラフォー男子の恋心(レジ編)

  いつも買い物にいくスーパーマーケットのチェッカーチーフAさんが、知らないうちに異動していた。サブチーフの頃から数えて、5年間もいたことになる。最初、レジのMさんが好きになって、何度も話しかけていた。真面目で可愛くてロリ系でお姉さんが私の恋心の導火線である。この4つが揃うと、恋愛感情のビックバンが起こる。

  Mさんと話して喜んでいると、それを険しい顔で見ている女性が目についた。それが今回、異動したAさんである。レジで会計を済ましていると、私のことを真直ぐに睨みつけてくるAさんの姿に気づいた。感情をはっきりとストレートに示してくる彼女が眩しく見えた。

知らないうちに、Mさんに言い寄ることで、Aさんに構って欲しいという奇妙な三角関係ができていた。Aさんはそのたびに、怒りが抑えられないというていなのだ。いつぞや、ドアを大げさに強く開けてきた時は嬉しかった。

「夫婦共々60歳を過ぎまして、いつも近くのベルクを利用しております。
先日、チェッカーチーフの方が、見掛けるとすぐに来て、優しく大丈夫ですかと重たい買い物カゴを、カウンターに運んで頂きました。ものごとによく気付くしっかりした気持ちの良い人だと妻も感心しております。レジのスタッフにも小まめにアドバイスをしているのを見かけます。言われたスタッフも楽しそうに笑顔でいて、皆、いい雰囲気で仕事をされているようですね。また、サブチーフの方のストレートな働きぶりに、上京間もない若い頃の情熱を思い出し、涙腺の緩むこともしばしばです。小さい会社を経営していたこともあり、行くたびに頭が下がる思いです。指導が行き届いているのでしょう。気持ちよく買い物をさせて頂いております。話によると、埼玉の方に多くお店があるそうで、中には、千葉から働きに来るスタッフもいると聞き大変だと思いました。けれども、人の心と人の心の触れ合いを大切にするベルクのようなスーパーが、これからもっと多く広まることで、豊かな地域社会を育んでいくことを信じています。頑張ってください!」

と本部の広報課にメールした。折り返し人事部長から喜びのメールがきて、全従業員の励みになりますと長文をいただいた。Mさんがいなくなると、新店に行ったことが、ネットのチラシでわかり、その店に行くことにした。

 サービスカウンターにMさんがいた。若いパートナーさんが聞いてくることに、困った顔をして答えているところだった。新店だから一から教える必要があって大変なのだろう。私の顔を見ると、あれっという表情をしてから、ぱっと明るくなった。幸先がいい。

 新店はどうですか? 慣れていない人達が多いから、大変なことが多いかなというような、当たり障りのない常識的な立ち話をしてから、私は本題に入った。

「両親のこと良く面倒みてくれたじゃん。悲しんじゃってさぁ、菓子の包みでも渡したいわねというから持ってきたよ」

「いりません……」

 警戒心を露わにして、断固たる決意があった。

「ボケているんだよ。親がボケているんだよ。悲しむなぁ。そんな風にしか思われていなかったなんて、辛いですよね」

 辛いですよねという言い方は、女性が感情を込めて口にするような高い声を意識した。ふと警戒を緩めて、彼女が笑った。

「先週の日曜日にも来たんですよ。近くで友人の結婚式があったから……、でも、いなかったんです」 今度は、できるだけ冷めて落ち着いた言い方をした。「でも、グリーンウォークだって大きいじゃないですか? 別にそこでもいいと思うけどなぁ」

 と真面目に話かけると、やはりMさんらしく、挑むようなキツイ眼差しを向けてきた。新店は初めてなんで!

 サヨウナラと菓子の包みを置いて立ち去った。中には手紙を入れておいた。

「新店である座間栗原店への栄転おめでとうございます。新店の広告に顔写真入りでMチーフのことが紹介されていました。高齢の両親も、良く気付く感じのいい人だったのにと残念がっております。私も笑顔がとてもステキな人だったので残念で仕方ありません。
先月、小説『金閣寺』の舞台を巡る旅中で、映画コナンのエンドロールの情景である渡月橋を渡り、小督の局の墓にお参りしました。『平家物語』で身を隠した小督を追う仲国は、「を鹿なくこの山里のさがなれば悲しかりける秋の夕暮」と在原業平が詠んだこの地で、微かに響く琴の音を頼りにありかをみつけることができたとされています。
近くの亀山公園には、百人一首の石碑が、松の木陰、砂利道の道端、茶屋の暖簾下等、無造作に置いてありました。天皇への禁じられた恋心を「鳰鳥の潜く池水こころあらば君に吾が恋ふる心示さね」という歌に表した作者の魂が、800年の時を経て私の心の琴線に触れます。
本日は、驚かせてしまい申し訳ございません。栄転であっても、新店による年末年始は大変だと思います。どうかお身体にお気をつけて頑張ってください。私も頑張ります!」

スーパーに顔を出すと、サブチーフだったAさんがチーフになっていた。私は嬉しかった。彼女は一緒に異動したと考えていたからだ。それから、私はAさんに何度も言い寄った。食事も誘ったこともあるけど、もちろん断られた。38歳と23歳では15歳も年齢が違うのだから、無理なはずだろう。誘ってからスーパーにいけなくなった。また広報部にメールすることにした。

「サービスカウンターを最近までよく利用しておりました。
Mチーフに会うたびに、亡くなって星になった彼氏のことを思い出します。男女の違いはあっても、曲がったことを嫌う感じがよく似ているんです。
繁華街で酒の入る仕事をしていて、ネオン暮らしが長引くほど、気持ちを真っ直ぐ向けてくる人に幸せを感じて弱くなってしまいます。私もグレずにMさんのように生きていたら、今頃、幸せなお母さんになれたのかなぁって思います。
夜の仕事から足を洗って出直そうとした矢先、明るく健気に働くチェッカーの方達に出会いました。ステキにまぶしくて、それがとても羨ましくて、新天地の函館で、彼女達のように頑張りたいです。
大好きなベルクさんは、心と心の触れ合いを大切にした真心ある姿をいつまでも大事に守ってあげてください!応援しています。星に願いを込めて…」

 Mさんに今度の休みに会いに行ってみようか。おそらく海老名にできた新店だろう!

 

 

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カテゴリ
阪神タイガース・プロ野球・スポーツ