劇団四季『パリのアメリカ人』を観に、横浜中華街近くにある劇場に足を運んだ。四季劇場はどこもロマンティックな場所にあるものだ。その街の雰囲気も観劇にのぞむ客の心理に影響を与えると考えてのことか? 他の劇に比べて人気が出ないのは、歌の数が少なく、圧倒する刺激的なダンスはなく、バレエでの感情表現がメインであり、三人の男性が一人の女性に恋する物語であっても、ナチス占領後のパリという時代背景が複雑で感情移入しにくいからだろう。
隣に座っていた老夫婦は、舞台の背景にパリの凱旋門の陰が映っているのをみて、あれアメリカじゃないの? と夫に聞いていた。何度も疑問を持つようであったから、子供からお年寄りまで誰もが楽しめる、『アラジン』『ライオンキング』『キャッツ』のロングランミュージックとの違いはわかりにくさもあるだろう。バレエも男女の複雑で細かい心理を絶妙に表していても、その動きは大衆の心を煽動するには静かで不向きである。
しかし、場面展開は絶妙で、不自然さが全くない。ネットでもコメントがあったように、インスタ映えのする場面の連続であるというのは疑いを入れない。洗練された音楽と演出者の観念を通した上での抽象化したパリの舞台を目の前に数時間いると、パリに来た以上にパリを感じるものがあった。こんな美しい劇団四季を観たことがないというフレコミの通り、とにかく美しいパリの街が私の心に残るのだ。
音楽は本当に大事なメッセージを表すところのみにつかわれる。大人のミュージカルである。カーテンコールも節度を保ったもので、演者と客の馴れ合いやベタベタしたものではなく、形式的に手を振って終わるものであった。客層はそのため若くなく、老後の楽しみに来ている人達が多い印象であった。
劇場を出て石川駅に向かう間、横浜中華街を通った。中国語が多く飛び交うこの街で、多くの中国人が仕事を得て救われているのかもしれない。異国情緒漂う街の景色を写真に収めた。