1970年、熊本県水俣の地を訪れた世界的な写真家ユージン・スミス。彼は、チッソ工場から20年以上にわたって海に流出した水銀によって引き起こされた水俣病と、その被害に苦しむ人々の姿をレンズに収めた。この地にやってきた彼の目に映ったのは、深刻な健康被害に苦しみながらも必死に生きる住民たちの姿だった。
例えば、水銀中毒により両足に補助器具を固定しなければならない青年が、雨の中でアコーディオンを無心に弾く姿。また、母親が目も見えずほぼ植物状態となった少女を風呂場で笑顔で介抱するシーン。これらの場面に映し出された人々の生き様は、見る者の胸を強く打ち、単なる悲しみを超えた「健気な美しさ」を感じさせてくれる。
水俣病と向き合うスミスの視点は、決して被害者への同情や哀悼だけではなく、「美しい世界秩序」を築こうとするモラルの闘いを映し出している。一枚一枚の写真には、社会の悪と対峙する強い意志が込められており、その視線に込められた力が、観る者に「何かを変えなければ」という感情を喚起させる。
コロナ禍の影響もあり、映画館には私を含めわずか3人の観客しかいなかった。このような重いテーマの映画は、残念ながら大衆に広く受け入れられにくいのかもしれない。しかし、この映画は私たちに公害問題や社会の暗部に対する意識を再び喚起する力を持っている。明るいテーマの映画も良いが、こうした重みのある作品がもっと評価され、世間に広まってほしいと心から願う。
街を歩いていると、ゲームセンターから出てきたカップルが見えた。女性はジョーズの大きなぬいぐるみを抱き、笑顔で歩いている。こんな日常の一瞬が、平和であることの大切さを感じさせてくれる。
水俣の事件から50年が経過し、今でも痛ましい記憶が残る中、私たちは再び公害問題について考え直すべき時が来ているのかもしれない。