以下の夏目漱石の書き換えをして、創作学校に送った。1ヶ月後に添削され、返ってきたので、その文章をここに掲載する。これが、10回添削してくれる、プロ養成の通信講座の実態である。高いか安いかを、読者は、ぜひ見極めていただきたい。
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課題『ロマンスを小説に(原稿用紙 3 枚)』を、お送りいただきありがとうございます。大日如来さんの作品『倫敦塔』を拝読いたしました。第 1 回から一筋縄ではいかない課題で、講師を務める私も講評するのに四苦八苦しております。
受講者の皆さんも迷いながら悩みながら、果敢に挑戦されているようです。まず、どのような作品を選ぶのか? というところから問題が勃発しているわけで、皆さん、ご自身の尊敬する作家さんや好きな作家さん、あるいは作品を選ぶか、もしくは誰もが知っている童話や寓話を選んでいます。
だいたいこの 2 パターンに分かれますが、nyoraikunさんは前者ですね。ただ、書き換えるという作業は、後者のほうがやりやすいかもしれません。が、ここにひとつの罠があります。「誰もが知っているであろう物語」を「誰も知らない物語」として書き換えなければならないということです。たとえばnyoraikunさんが選んだのが『桃太郎』だとしますよね。『桃太郎』は言わずもがな、誰もが知っている物語です。しかし、読者はnyoraikunさんの書く『桃太郎』を初めて読むのです。ということは当然、初めて読む方にもわかるように書かねばなりません。
受講生の皆さんは「これは誰もが知っている物語だから、割愛してもいいだろう」と文章をはしょってしまうのです。『桃太郎』に限らず、『シンデレラ』も『マッチ売りの少女』も同様です。おわかりでしょうか。たとえ誰もが知っている物語だとしても、nyoraikunさんが作者の『桃太郎』を読者は知らないのです。
さて、実際にnyoraikunさんが選んだ『倫敦塔』ですが、夏目漱石は有名でも『倫敦塔』は誰もが知っている物語ではなさそうです。ということは、初めて読む読者の方向けに書かねばなりません。書き換える、というのは、上書きではなく、世界観とその世界をnyoraikunさんのものとして書く、ということです。第 1 回目の課題は『既存のロマンスの冒頭を、小説へと書き換えよう』ですから、登場人物の関係性や立ち位置などもnyoraikunさんの言葉で書く必要があります。
前置きはこのくらいにして、実際にnyoraikunさんの『倫敦塔』を読んでみましょう。「夏目漱石は…」ではじまりましたから、主人公は夏目漱石だと読者は認識します。ところが 7 行目に「僕」が登場し、「登場人物の名前を夏目漱石にした。」とあります。1 行目から 6 行目まで三人称で書かれていた物語が、7 行目で一人称になり、さらに別の夏目漱石が登場する、という流れでしょうか?
おそらくnyoraikunさんは、1 行目から 6 行目を事実として書き、7 行目から創作に移ったのだと思います。が、現状のままだと私が解説したとおりに読者は読んでしまい、混乱してしまうのです。次いで 12 行目に「冒頭では、一度しか倫敦塔を訪れていないということにしてある。実際は…」と続きますが、これは実在した夏目漱石の話なの
か、あるいはnyoraikunさんが作り上げた夏目漱石の話なのか、ここでも読者が混乱してしまうのです。
nyoraikunさんの頭の中ではnyoraikunさんが創作した「夏目漱石の物語」として今作は書かれていると思うのですが、読者の頭の中では夏目漱石がふたり存在し(実在した夏目漱石とnyoraikunさんが創作した夏目漱石)どちらに軸を置いて読めばいいのかわからなくなってしまうのです。文章は描写自体に問題はないのですが、人称と視点がブレているので、全体的に(読者の立場から見て)安定感が失われています。小説を書く際、まず一人称で書くのか三人称で書くのか決めて統一させなくてはなりません。それに伴い視点も決めて、読者がすんなりと小説の世界に入って、ブレずに世界を楽しめるように作者は心を配らなくてはならないのです。
質問コーナーにあった語彙力の付け方ですが、アプリのニュースサイトで十分だと思い
ます。ただし、しっかりした日本語で書かれているサイトを選ぶことと、ぼんやりと流し読みをするのは避けてほしいです。ニュースや情報を読み、nyoraikunさんご自身はどう思うのか、どう感じるのか、いちいち考えて言葉にする癖をつければいいと思います。読む時間がないのであればオディブルなどを活用するのもいいと思います。
次回の課題も楽しみにしています。