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平野啓一郎に会う! ドナルドキーンの思い出!

2022年6月25日(土)、神奈川近代文学館で、作家の平野啓一郎の講演があった。題名は、ドナルドキーンとの思い出というもので、彼が会場に入ってくるなり席につき、話を始めた。安部公房の講演で、何も準備をせずにきて話をするというのがあって、一度はやってみようと思っていて、今日、その日にしようと考えているというところから話を始めた。1時間、ずっと言いよどむことなく、ドナルドキーンに関することを話続けていて、やはり言葉による自己表現で生活するプロは違うなぁという印象を強く受けた。
作家というと、広範囲に渡って様々な作家を論じるイメージが強いけれど、平野氏は、三島由紀夫谷崎潤一郎泉鏡花森鴎外などの作家を読み込んでいるけれど、夏目漱石川端康成などは、まったく興味を示さないようであった。何度も話に三島由紀夫について出てくるので、私は嬉しくなったが、他の聴衆はどう思ったか知りたいところである。
最後に質疑応答ということなのであるが、コロナ感染予防ということもあり、事前に質問箱に入れる形式となっている。私の質問だけを読み上げて、15分近くもその説明に費やし、時間切れということで終えてしまったのには、嬉しいと同時に、申し訳ない気持ちにもなった。
「三島の終生の友人であり、理解者であったドナルドキーンさんであるが、『太陽と鉄』については、とても嫌いな作品だと述べています。三島没後30周年の島田雅彦古井由吉の対談で、平野啓一郎さんは、『太陽と鉄』を楽しい作品だと2人に紹介していますが、文武両道については、三島本人もわからなくなってきたのではないかと疑問を呈しています。なぜ、ドナルドキーンさんは、『太陽と鉄』を嫌いだったのでしょうか? 平野啓一郎さんと三島についての意見の一致や不一致についてのエピソードがあれば教えてください?」
「太陽と鉄は、軍隊における共同体原理に近く、鉄で身体を鍛えて、剣を用いるといった要素が強く、ドナルドキーンさんは、戦争を忌避されている方ですから、嫌だったのでしょう。黒い服を着ているとナチスドイツを思い出すから、黒い服は着ないということが後でわかり、自分は好きで着るからまずかったのかなと後悔している。三島が天皇というとき、どの天皇をさしているのかということについて、キーンさんなら知っているかもしれないけど、自分にはずうずうしさがなかったから、もっと図々しくあれば良かったと、いまだに後悔しています」
と話してくれた。
平野啓一郎の話で、他に興味が湧いたのを、いくつか紹介したい。
安部公房と食事をしていて、食事の最後に、このチーズは日本人でも合うなと言ったそうだ。国際派作家で、人種を超越した天才と信じていた作家が、日本人でも合うという判断をすることに、日本人という括りで話をすることにショックを受けたらしい。面白いエピソードである。
川端康成の義理の妹がロシアに行くときに、横浜の港に文壇の連中が集まり、瀬戸内寂聴もそこに交じって、妹の乗る船に手を振っていたが、機械の故障で、その後、2時間ぐらい停泊することになり、ばつの悪い川端康成が、離れたところにある石段にいって、ポツンと座っていたという。
瀬戸内寂聴の自宅で話をうかがった際、生前の島崎藤村を見かけたことがあるという話を聞いて、歴史上の人物だと考えている方も、実はそんなに大した時が経っているわけではないと実感したそうだ。
森鴎外の娘の経営するカフェが、銀閣寺の近くにあった。京都大学在学中に行きつけになり、鴎外のエピソードをせがむうちに、仲良くなった。年齢からカフェを切り盛りすることができなくなり、店内に飾ってあった森鴎外の机を、あげるからと言われたのだが、とんでもないと断ってしまった。あの時いるとなぜ言えなかったのだろうといまだに悔やんでいる。芦屋の記念館にその机は展示されているが、あの時、首をたてに振っていればという気持ちは一生消えない。でも、そういう性格だから、彼女に好感を持ってくれたんだろうと自分で自分を慰めている。

平野啓一郎の顔は、思索の跡が、表情に感じとれるほど重厚である。聴衆も周りはメモをとって聴く方ばかりで、作家として登壇している以上、それに応えるプレッシャーもあるのだろうなとも思えた。本来、講演活動を作家はしたいものなのだろうか? 本当は、書斎にいて、作品に精を出していたいのではないか? 講演会の後は、何か用事があるのだろうか? 純文学であるから、様々な活動もしていかないといけないのか? など、いらん疑問も湧いてきた。

1階のドナルドキーン展では、三島由紀夫が最後にキーンに送った手紙が、封筒と共に展示されていた。三島由紀夫の直筆の手紙であるから、あまりにもリアルであった。
「小生とうとう名前どおり魅死魔幽鬼夫になりました。キーンさんの訓読は学問的に正に正確でした。小生の行動については、全部わかっていただけると思い、何も申しません。ずっと以前から、小生は文士としてではなく、武士として死にたいと思っていました。今さらご挨拶するのも他人行儀みたいですが、キーンさんが小生に尽くして下さったご親切、友情、やさしさについては、ただただ感謝のほかはありません。キーンさんのおかげで、僕は自分の仕事に自信を抱くことができましたし、キーンさんとの交際はたのしさに充ちていました。本当に有難うございました。(中略)この夏下田へ来て下さった時は、実にうれしく思いました。小生にとっての最後の夏でもあり、心の中でお別れを告げつつ、たのしい時をすごしました。」
心の中でお別れを告げつつという言葉に、三島由紀夫が生々しく、その場に存在しているような気持ちになった。


帰りに寄った新宿駅 飲んで食べたくなるインパクト。この自動車を見ると、全体で夏の飲料を売ろうとする気持ちが伝わってくる。

コロナ禍で宅配事業が急成長。スーパーに勤める私は競合の業種が増えることを意味する。複雑な気持ちで、CMの安達祐実を見つめる。これが浜辺美波になったらどうしようか……💦

帰宅して自宅前のゴミ置き場を写真におさめる。安部公房の真似であるが、アルコールを呑む人の多さを感じる。人生に酔いたいのだ!

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