3月16日(月)に青山学院大学出身で派遣社員として働く女性に会ってきた。当日も体調が悪いということで、会えないのではと思われたが、時間通り彼女は現れた。
堅固なマスク姿で顔が覆われているため、目しか見えない。私も気をつかって、すぐバッグから取り出してマスクをつけた。コロナが流行っていますからね? と問いかけると、彼女は小さい声で、「そうだね」と呟く。
今日ここにいることが不本意であると告げているようだ。
多摩境駅から歩いて5分ほどにある「さかい珈琲店」の中に入った。高級ホテルのラウンジのように、テーブル間の距離もあり、ゆったりと話しやすい雰囲気である。
ずっとマスクしたままでいるのではと不安になったが、席についてメニュー表に目を向けながらマスクをとった。
写真の通り美人だなぁと思った。綺麗な顔立ちであるけれど、表情に明るさがない。
私の疑問は青山学院を卒業して派遣社員をしている人生についてである。
「大学が青山学院って凄いですよね。勉強は沢山されたんですか?」
「あの頃は、大学に入りやすくなっていたから、そんなことは無いですよ」
と笑顔で謙遜された。すると、私が気にしていたことを、あれこれ話し始めた。
在学中に仲の良い友達とバンド活動をしていて、卒業後も引き続き熱心に行っていた。25歳の時に、ボーカルが仕事を理由で辞めて、彼女の父親も脳梗塞で亡くなったことから、活動を休止して就職した。運送会社でドライバーさんを手配する仕事であったのだが、従来、コミュニケーションをとるのが苦手ということで、向いていないと辞めてから、ずっと派遣の仕事をしている。
聞き取れないほど小さい声で話すこともあり、なるほどなと思った。それゆえに、表現したい欲求が強くあるのだろうというのも私と似ている。
婚活を始めたのも、可愛がっていた甥がもう大学生で、先に結婚されることを思うと辛いからと答える。彼女はなんら結婚に対して現実的ではなく、それ以前なのかもしれない。
西武ライオンズのファンで、スポーツジムに週1で通い、クラシックを嗜む彼女である。1時間半ぐらい経って、行きますか? と彼女が不満そうに立ち上がった。私は、今回も駄目だなと思った。
「八王子駅にもこういうcafeがありますかね?」
駅に向かう橋の上で急に聞いてきた。祖母と席取りせずに喫茶店に入ったら、席が無くて出てきたことがあってねと笑顔になった。
愛情を受けて育った彼女のことを信頼できると思えた。
多摩境駅まで出てきてくれた感謝の気持ちを込めて、
「こんな綺麗で美人な方に、お時間を頂いて、申し訳ない気持ちしかありません」
と真面目に口にした。また彼女は3度目の笑顔を見せた。惜別の言葉はいつも不真面目に聞こえるものだ。